新たな臓器保存法の確立を目的として、本年度はheat shock protein(HSP)の誘導が小腸冷保存および再灌流障害に及ぼす影響を検討した。 Brown Norway(BN)ラットにSodium arsenite(SA)を6mg/body全身投与すると、18時間後から26時間目まで小腸組織中にHSP70が発現することを確認した。そして、24時間目に摘出したHSP発現小腸と無処置小腸をUniversity of Wisconsin(UW)solutionで10、20、30時間各々4℃保存し、組織学的変化について検討を行った。10時間保存小腸では、両群において小腸組織構造は良く保存されていた。20時間では、無処置時には著明な小腸粘膜の脱落を認めたが、HSP発現小腸では軽度の繊毛高の短縮、粘膜浮腫像を認めるのみであった。30時間では、HSP発現小腸においても繊毛上部の粘膜下の空胞化、軽度の脱落がみられたが、無処置小腸の粘膜構造はほぼ完全に破壊されていた。この結果から、HSPの誘導は、UW solutionによる小腸組織保存効果を延長することが示唆された。次に、HSP発現の誘導が移植後の再灌流障害に及ぼす影響を調べるため、予備実験として、SA投与BNラットおよび無処置ラットを用い、上腸間膜動脈根部で3時間血流を遮断し再灌流後の組織学的変化、各種サイトカイン濃度を検討した。無処置ラットでは血中TNF、IL-8濃度は再灌流1-6時間後に著明に上昇し、小腸組織には好中球を主体とした炎症細胞浸潤を認めた。一方、SA投与ラットではTNF、IL-8の産生が抑制され、組織学的にも炎症細胞浸潤および粘膜障害は軽減された。生存率においても、無処置群では約30%であったのに対しSA投与群では約70%と改善されていた。さらに、HSP誘導と抗IL-8抗体投与による再灌流障害抑制効果の比較実験では、HSP誘導がより強い効果を示すことも示唆された。現在、この保存小腸をドナーとし実際に小腸移植を行い、HSP誘導による移植臓器保存効果について検討中である。
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