新たな臓器保存法の確立を目的として、heat-shock protein(HSP)の誘導が小腸冷保存および、移植後再灌流障害に及ぼす影響を検討した。 Brown Norway(BN)ラットに、Sodium arsenite(SA)を6mg/kg静脈内投与すると24時間目に、HSPが小腸組織内に高発現する。そこで、24時間目に摘出したSA投与HSP発現小腸と、対照として生食投与小腸を、University of Wisconsin(UW)液で、10、20、30時間各々冷保存し、組織を検討した。その結果、生食群では20、30時間冷保存すると、小腸粘膜の著明な脱落および構造破壊が認められたのに対して、SA投与群では20、30時間後でも、粘膜の軽度な脱落を認める程度であった。すなわち、SAを投与しHSPを誘導すると、小腸組織の冷保存時間を延長し得た。次に、HSPの誘導が小腸の再灌流障害に及ぼす影響を検討した。SA投与しHSP誘導後、前腸動脈根部で3時間虚血した再灌流群では、生食を投与した対照群に比べ、TNFおよびCINC値の上昇は抑制され、組織内好中球浸潤も軽減された。すなわち、HSPの誘導は小腸の再灌流障害も抑制した。この結果を踏まえて、HSP誘導保存小腸を移植し検討した。方法は上記SAまたは生食投与小腸を20、30時間保存後、異所性にBNラットに移植した。移植1日目の組織像を調べると、生食投与20時間冷保存後移植群では、著明な炎症細胞浸潤、出血、粘膜構造破壊を認めた。一方、SA投与20時間冷保存後移植群では、中程度の炎症細胞浸潤、一部に出血を認めるが粘膜構造は比較的保存されていた。移植後1週間後の生存率を比較すると、生食投与群は全例死亡したのに対し、SA投与群では100%生存が得られた。また、生食投与30時間冷保存後移植群では、ほぼ完全に粘膜構造が破壊されるのに対し、SA投与後30時間冷保存後移植群では、著明な炎症細胞浸潤を認めるものの、粘膜のCrypt部分は比較的保たれていた。今回の研究結果は、HSP誘導により新しい臓器保存法の確立が可能なことを示唆している。
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