研究概要 |
平成8年度:膵癌、大腸癌患者においてras蛋白に対する免疫応答を検討した。血清中の抗ras抗体陽性率は正常人の5%(2/40)に対し、大腸癌で40%(51/150.p<0.01),膵癌で80%(4/5、p<0.05)と高かった。抗ras抗体の認識部位はras蛋白の正常部、変異部など多様でその73%はras蛋白のカルボキシル基側の正常部であった。末梢血中のras蛋白関連ペプチドに対する特異的T細胞の検出率は正常人の0%(0/20)に対し、大腸癌で24%(6/25)、膵癌で40%(6/15)と高かった(p<0.01)。Ras蛋白を標的とした細胞障害性T細胞(CTL)の誘導を試み、膵癌3例中1例でras蛋白のカルボキシル基側の正常部ペプチドに特異的なCD4陽性のT細胞株が得られた。 平成9年度:膵癌、大腸癌患者の末梢血リンパ球をras蛋白あるいはその関連ペプチドで刺激後、EBウイルスによるトランスフェクションを行ない、得られたB細胞株の抗ras抗体の産生の有無を同定した。抗体産生株の検出頻度は3/21(14%)と低く,得られたB細胞株の上清中の抗ras抗体価の定量および精製を行ったが、十分な抗体価は得られなかった。 平成10年度:膵癌、大腸癌患者の末梢血リンパ球をras蛋白あるいはその関連ペプチドで刺激後、EBウイルスによるトランスフェクションを行ない、得られたB細胞株の抗ras抗体の産生の有無を同定した。また,IL-5,IL-8などのサイトカインの添加培養で検出頻度および抗体価の向上がみられるか検討したが,抗体産生株の検出頻度は6/38(16%)と相変わらず低かった.これら産生株のテロメラーゼ活性を測定したところ,その活性値は高く,不死化による継代培養は可能と考えられた.最終的に過去3年間の基礎的検討で抗ras抗体産生株の存在は確認できたが量的に十分な抗体を得るには至らなかった.
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