研究概要 |
1. 癌細胞培養株における糖鎖抗原の発現。 炎症性サイトカインをヒト臍帯静脈血管内皮細胞に作用させると、接着分子である、E-selectinが発現した。また、E-selectinのリガンドとしては、血液型抗原と関連のある糖鎖抗原である、シアリルLewis^a、シアリルLewis^xであり、胃癌、大腸癌、膵癌の培養細胞において、高率に発現していた。 2. 血管内皮細胞と癌細胞の接着性の検討 ヒト臍帯静脈血管内皮細胞と癌細胞の接着性について検討してみると、シアリルLewis^a、シアリルLewis^xの発現強度と正の相関が認められた。 またさらに、共培養すると,、一部の癌細胞が血管内皮細胞をおしのけて、もぐり込んでいく嵌入が観察された。 3. ヌードマウス経脾肝転移モデルの検討 ヌードマウスの脾臓に癌細胞を注入することにより、癌細胞の転移能に関する検討を行った。糖鎖抗原を強く発現し血管内皮細胞とよく接着し、嵌入能を有する細胞株のみが転移能を有していた。 4. 膵癌細胞のシアリルLe^a産生に関与する糖転移酵素の検討 シアリルLe^aおよびシアリルLe^xの発現を調節する因子として、これらの糖鎖構造を合成する糖転移酵素の活性が重要と考えられる。α1,3/1,4フコシルトランスフェラーゼ(Fuc-T)は、この最終段階に作用する酵素で、これまで5種類がクローニングされている。このうち、シアリルLe^aを合成しうるFuc-TとしてはFuc-TIIIが知られている。そこで膵癌細胞のシアリルLe^a発現に関与する糖転移酵素を同定するために、RT-PCR法にて培養細胞株におけるFuc-T遺伝子の発現を検討したところ、シアリルLe^aの発現とFuc-TIIIには相関が認められた。 以上により癌細胞の血行性転移生着において、糖鎖抗原と接着分子の関与がある事が判明し,これを制御することは転移抑制に有用な手段となりうる可能性がある.
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