本研究は肝細胞癌に対する経皮経肝門脈枝塞栓術(PTPE)や門脈結紮術などの門脈遮断術を中心とした集学的治療の開発と臨床応用をめざすものとして行われた。従来より門脈遮断により非遮断肝葉に肥大、再生が惹起されることはいろいろな実験により確認されてきた。本研究においては門脈遮断肝葉の変化を実験的および臨床的に検討した。ラットを用いて門脈遮断術を行うと、まず中心静脈までの距離が短縮し、肝全体としては萎縮することが明らかとなった。また長期間経過すると、門脈遮断肝葉ではkupffer細胞の数が減少した。臨床的にもCT像で観察すると、門脈非遮断肝葉の体積は増加し、門脈遮断肝葉の体積は減少した。さらにその際の肝機能をアシアロ肝シンチグラフィを用いて評価すると、肝全体のRIの取り込みは変化がみられないものの、門脈遮断肝葉のRI取り込みは減少し、門脈非遮断肝葉の取り込みは増加した。すなんわち門脈遮断術は門脈遮断肝葉の機能を非遮断肝葉へシフトさせることが明らかとなった。また門脈遮断術(PTPE)後門脈遮断肝葉の動脈血流量が増加、門脈非遮断肝葉の門脈血流量が増加することが、ドプラー超音波検査により明らかとなった。一方、門脈遮断術の肝癌に対する臨床的効果をみると、肝動脈塞栓術にPTPE併用肝切除施行肝癌症例においてPTPEは肝動脈塞栓術の抗腫瘍効果を増強した。特に従来肝動脈塞栓術で無効であった小肝内転移巣や門脈腫瘍栓に対する効果が増強され、術後成績が向上することが確認された。また切除不能肝細胞癌に対して門脈遮断術併用抗癌剤肝動脈内投与を行ったところ、片側に肝癌が限局した症例では有効であることが確認された。以上より門脈遮断術は進行肝細胞癌に対する集学的治療のひとつとして有用であることが明らかにされた。
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