研究概要 |
ヒト膵癌細胞株を用い、浸潤、転移における微小環境とくに癌細胞と免疫機構との関連について検討した。ヌードマウス脾内注射にて高率に肝転移をきたすSW1990細胞と末梢血よりFicol遠心分離法にて得た単核球(PBML)との混合培養(MLTC)時における培養上清中への各種サイトカイン産生をELISA kitを用い測定した。まず健常人のPBMLとSW1990のEffector : target ratio=10 : 1でのMLTCにおける上清中TNF-α産生は、培養開始後2時間より上昇し最大1200pg/mlまで達し約72時間持続、またIL-1 βの産生も4時間より上昇し400pg/mlで最大となり約72時間持続した。健常人でのこれらサイトカインはマクロファージからの産生であることが確認され、リンパ球添加にても変化は認めず、またPANC-1, Capan-1&2,など他の膵癌細胞とのMLTCでも産生はみられ非特異的な反応であると考えられた。一方担膵癌患者血ではマクロファージに加えリンパ球を添加したMLTCにおいてTNF-αおよびIL-1 β産生はさらに上昇し、またIFN-γの産生も認められリンパ球による癌細胞認識とくにCTLの関与が示唆された。次に癌細胞上の免疫関連分子発現をフローサイトメトリーにて検討した。肝転移能を有する細胞(SW1990, Capan-1)と転移を示さない細胞(PANC-1, Capan-2)間では、HLA class抗原はいずれも強い発現を示し、またHLA classIIの発現においても肝転移能との関連は認められなかった。ICAM-1の発現を検討したところSW1990, Capan-1での発現率は27.1, 48.1%と低率であるのに対し、PANC-1, Capan-2では94.1, 73.2%と転移を示さない細胞でICAM-1の高発現を認めた。またPBMLとのMLTC時における癌細胞の受ける細胞傷害活性を検討したところ高肝転移性細胞では弱いcytotoxicityしか受けず、一方肝転移を示さない細胞は非常に強いcytotoxicityを受け、ICAM-1発現との相関が認められた。すなわちICAM-1発現の低下が免疫機構なかでも初期免疫に関わるNK cellからの回避につながり、肝転移形成の一部に関与していることが示唆された。
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