研究概要 |
癌細胞の免疫担当細胞による認識機構は、様々な接着分子が関与しているが、癌細胞上のICAM-1はICAM-1/LFA-1システムを介してNK,LAK細胞のdirect signalあるいはCTLのcostimulatorとして癌認識に作用している。そこで当科で切除された膵癌原発巣27例を対象とし抗ICAM-1抗体を用いた免疫組織染色を行い、臨床病理学的背景因子との関連を検討した。ICAM-1発現陽性は13/27(48.1%)にみられたが、年齢、性別、組織型あるいは膵癌に特徴的である後方浸潤とくに門脈浸潤やリンパ節転移の有無ではICAM-1発現との関連はみられなかった。一方肝転移については、ICAM-1陽性例で30.8%、陰性例では50.0%の転移率であり有意差はないもののICAM-1発現の低下と肝転移との関連が示唆された。 つぎに転移における微小環境、免疫機構との関わりについて、ヒト膵癌細胞を用い種々のサイトカインによる癌細胞上ICAM-1発現の変化を検討した。高肝転移性のSW1990細胞に比し、転移を示さないCapan-2,PANC-1細胞ではELISAにてICAM-1の強い発現が認められた。Capan-2,PANC-1でのICAM-1発現は、2.0,10.0,50.0ng/mlのTNF-α,24hr処理で濃度依存性に有意に発現の増強が認められたのに対し、SW1990でのICAM-1発現は変化なかった。一方、TGF-β;4.0,20.0ng/mlの処理においては、いずれの細胞においても有意にICAM-1発現の低下が認められ、autocrineあるいはparacrineに産生されるTGF-βが微小環境において癌細胞のICAM-1発現を低下させ、免疫機構からの回避さらに膵癌の進展、転移に関与している可能性が示唆された。またTGF-βの多くは潜在型で産生されるが、プラスミンなどのプロテアーゼがこれを活性化することが知られている。そこでセリンプロテアーゼの一種であるu-PA (urokinase-type plasminogen activator)の産生を検討したところ、SW1990,PANC-1細胞両者でほぼ同様に産生されているのに対し、PAI-1 (plasminogen activator inhibitor-1)の産生はPANC-1で強く、それを反映しPANC-1ではu-PA活性は低く、SW1990で強いu-PA活性がみられ、これらがTGF-βの活性化にも一部関与している可能性が示唆された。
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