研究概要 |
膵癌細胞と健常人末梢血単核球(MNL)との混合培養(MLTC)にて、TNF-α,IL-1βの産生がみられ、これは単球からの産生であることが確認され、また血管内皮細胞上のELAM-1発現誘導に関与し、癌細胞-内皮細胞接着から転移形成に作用する可能性が示唆された。つぎに免疫関連分子の発現を検討した結果、3種類の膵癌細胞SW1990-高肝転移性株、CAPAN-2-低転移性、PANC-1非転移性にてHLA classI抗原はすべてに高発現がみられたが、ICAM-1発現はSW1990で低く転移能と逆相関し、MNLのSW1990への接着性は低く、細胞障害活性も低値であり、ICAM-1/LFA-1システムを介した免疫機構(NK,LAK細胞)からの癌細胞回避の関与が示唆された。そこで手術材料を用いた免疫染色から、ICAM-1発現と臨床病理学的因子との関連を検討した結果、組織型、リンパ節転移や門脈浸潤の有無との関連は認めなかったが、肝転移ではICAM-1陽性に比し陰性例において多い傾向がみられた。次にICAM-1発現を制御する因子としてサイトカインによるICAM-1発現変化を検討した。TNF-αはSW1990を除き膵癌細胞のICAM-1発現を濃度依存性に増強したが、TGF-β1は4,20ng/mlの濃度でICAM-1発現を有意に低下させ、それに伴いリンパ球の癌細胞接着能、細胞障害活性も低下した。このTGF-β1の作用は中和抗体にて抑制されるレセプターを介した特異的作用であり、またノザンブロットの検討ではmRNAレベルでの低下は極軽度のみで転写レベル以後の蛋白発現での異常の関与が示唆された。最後にこのTGF-β1が膵癌自体の浸潤、転移能におよぼす影響を検討したが、MMP-2,u-PAなどのプロテアーゼ産生を増強するとともに、in vitro浸潤能さらにはin vivo転移性を有するSW1990,CAPAN-2の肝転移能を有意に増強させることが判明し、TGF-β1は宿主免疫能を低下させるのみならずautocrine,paracrineに癌細胞の免疫関連分子発現を制御し免疫機構からの回避に作用し、また癌細胞自体の浸潤、転移能を亢進させ、膵癌の転移形成に大きな一因子として関与していることが示唆され、このことからTGF-β1中和抗体やTGF-β1産生を制御する薬剤を応用した転移抑制の可能性も今後の課題として考えられた。
|