研究概要 |
【目的】膵癌の臨床的悪性度は高く治療成績も不良であるが、従来の膵診断法では早期発見は困難である。このことから簡便かつ精度の高い膵癌早期診断法の確立が求められている。また術後早期再発例も少なくなく、転移高危険群の選別も求められている。 一方分子生物学的研究が急速に発展しつつあり、膵癌について以下の特徴が報告されている。 1.膵癌の90%以上にK-ras,exon1,codon12点変異が発現している。 2.このK-ras変異はGGT→GAT,GTT,CGTの3型が90%以上で、この変異に基づくmutation specific PCRは検出感度を大幅に高めることができる。 3.変異は2cm以下の小膵癌でも標本中から検出され、癌化の早い段階からの関与が示唆される。これらの諸条件を利用して門脈血中K-ras変異の検出を試みた。 【方法】膵癌手術例のおいて、開腹直後に肝十二指腸間膜内の門脈穿刺により門脈血を採取した。門脈血は低張緩衝液に入れ溶血させたのち、DNA抽出を行った。allele specificPCR法、すなわちGGT→GAT,GTT,CGTに対応する3種類のprimerを用い、K-ras,exon1,codon12の変異を検出した。 【成績】浸潤性膵管癌9症例(膵頭部癌7例、膵尾部癌2例)について施行した。2例に門脈血よりK-ras,exon1,codon12の変異を検出した。うち1例は切除不能進行癌(術後1月死亡)、他の1例は直径1cmの小膵癌(切除後9月無再発)であった。7例の進行膵癌(切除6、バイパス1)については変異は検出されなかった。 【結論】本法では門脈血中K-ras変異は少数にのみ検出された。高度悪性癌と小膵癌の両者に検出されたことの解釈には今後の検討を要する。現在、感度をさらに上げた方法で検討中である。
|