研究概要 |
ガストリンには、正常粘膜細胞のみならずある種の癌細胞に対しても増殖促進作用があることが実験レベルでは確認されているが、臨床的にガストリン分泌動態からみた癌の増殖能や悪性度、発癌との関連についての報告はほとんどみられない。また、そのautocrine,paracrine,endocrine機構についても解明されておらず、ガストリン分泌メカニズムについては、胃内pHによるfeedback機構のみでは説明がつかず、ある種のサイトカインが関与している可能性も考えられる。われわれはこれらの点について追及する為に胃癌患者622例を対照に検討を行い、同時に基礎実験も行ってきた。 1)加齢に伴う胃癌の発生増殖に高ガストリン分泌環境が認められた(早期胃癌患者では有意な正の相関(p<0.01)、胃潰瘍、十二指腸患者では相関無し)。 2)癌の進行程度を揃え、空腹時血清ガストリン高値群(>100pg/ml)と低値群(<100pg/ml)で、c-erbB2,EGF,EGFRの腫瘍細胞の発現、ならびにPCNA,MIB-1の腫瘍細胞核の標識率を免疫組織学的に検討し、いずれにおいてもガストリン高値群が低値群に比し有意に高値を示した(P<0.05-P<0.01)。しかし、腫瘍におけるガストリンの発現については差はみられなかった。 3)空腹時のみならず試験食負荷後血清ガストリン値における予後の検討において、高値群は低値群に比し有意に予後不良で(P<0.01)、多変量解析では特に、低分化型胃癌の予後因子として重要であった。 以上より、ガストリン分泌動態と胃癌の増殖能・悪性度・予後との関連が臨床的に確認でき、さらに現在、RT-PCR法を用い腫瘍におけるガストリン、ガストリンリセプターの発現についての検討や、基礎的にモルモット幽門洞粘膜よりG-cell単離培養しサイトカイン刺激実験も進めている。
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