近年胃内Helicobacter pylori感染が胃十二指腸潰瘍の再発を激減させることが明らかとなり、潰瘍治療法が大きく変化しつつあるが、H.pylori感染と胃十二指腸潰瘍合併症との関係は未だ明らかではない。そこで今回、合併症緊急手術の80%を占める十二指腸潰瘍穿孔症例と性、年齢を合わせたmatched controlでcase-control studyを行い、十二指腸潰瘍穿孔に対するH.pylori感染の関与を検討した。症例は21例の穿孔性十二指腸潰瘍と、対象として非穿孔十二指腸潰瘍40例である。H.pyloriに対する血清IgG抗体価(ELISA)陽性率は穿孔群95%、非穿孔群93%で有意差を認めなかった。次に胃内H.pyloriの遺伝子診断で穿孔群と非穿孔群を比較した。十二指腸潰瘍穿孔に対して大網充填術が施行され胃が温存された23症例と、性、年齢を合わせた非穿孔十二指腸潰瘍45例で、胃液中のH.pylori DNAをPCR法で検出、Southern hybridization法で同定した。結果は穿孔群74%、非穿孔群71%の陽性率で有意差を認めなかった。H.pyloriの菌株の中で潰瘍発症と関連する菌株に共通する遺伝子として、cagAが、また空胞化細胞毒に関与する遺伝子としてvacAが報告されている。そこで、前述のcase-control症例でH.pylori DNA陽性中のcagA、vacAの陽性率をnested PCRで検索した。結果はcagA:穿孔群85%、非穿孔群89%、vacA1:穿孔群69%、非穿孔群82%、vacA2:穿孔群62%、非穿孔群78%と穿孔群と非穿孔群間に細胞毒関連遺伝子の陽性率に有意差を認めなかった。この結果から、H.pyloriは消化性潰瘍の発症、再発因子であっても潰瘍穿孔への関与は少ないと考えられた。
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