ヘリコバクター・ピロリの除菌治療により消化性潰瘍の再発が激減することは、多くの臨床研究により証明されている。しかし、ヘリコバクター・ピロリ感染が消化性潰瘍の穿孔に関与するか否かという問題は解決していない。 我々はこの問題を解決するために、穿孔性消化性潰瘍症例と非穿孔性消化性潰瘍症例との間で性と年齢を合わせた、ケース・コントロールスタディを組み、ヘリコバクター・ピロリ感染の関与およびヘリコバクター・ピロリが細胞毒遺伝子(cagA、vacA)を有しているか否かを検討した。血清ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価(ELISA)は十二指腸潰瘍穿孔例20/21(95%)vs.非穿孔十二指腸潰瘍37/40(93%)、胃潰瘍穿孔5/5(100%)vs.非穿孔胃潰瘍24/28(86%)といずれも穿孔例と非穿孔例間に有意差を認めなかった。胃液のヘリコバクター・ピロリをPCRで増幅し、southern blot hybridizationで同定した結果は、十二指腸潰瘍穿孔例17/23(74%)vs.非穿孔十二指腸潰瘍32/45(71%)と両群間に有意差を認めなかった。ヘリコバクター・ピロリ陽性症例でcagA、vacA遺伝子陽性症例は以下のごとくであった(十二指腸潰瘍穿孔例vs.非穿孔十二指腸潰瘍):cagA 11/13(85%)vs.24/27(89%);vacA1 913(69%)vs.22/27(82%);vacA2 8/13(62%)vs.21/27(78%)といずれも有意差を認めなかった。 以上の性と年齢を合わせたケース・コントロールスタディの結果より、消化性潰瘍の穿孔要因はヘリコバクター・ピロリではなく宿主側の因子の関与が示唆された。
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