研究概要 |
平成8年度は外科重症患者モデルとして進行食道癌患者を対象とした周術期の白血球の動態と接着分子の変動に関する検討を行った。 進行胸部食道癌患者18例を対象として周術期の接着分子の変動を検討した。術前には癌の縮小を目的としてシスプラチンまたはネダプラチンと5FUを用いた化学療法と放射線療法を併用した補助療法を施行した。手術は右開胸開腹食道亜全摘術を施行した。術後の栄養管理として高カロリー輸液とさらに術後第3病日から経腸栄養を開始し、輸液に併用して術後第8病日には経腸栄養で30Kcal/kg/day以上のfull strengthを投与した。 接着分子発現量は術前の化学療法・放射線療法施行中は高値で推移して、術後第1,3病日に低値となり、術後第8,15病日に漸増した。また術前の経口摂取の有無によって発現量に差が認められた。経口摂取群12例と絶食群6例で比較検討すると、絶食群では多核白血球上LAF-1,L-selectin,PECAM-1が術前から術後第3病日まで絶食群よりも有意に高値で推移した。しかし術後経腸栄養開始後の術後第8,15病日には両群の接着分子発現量は近似となり、術前後を通じての標準偏差も最小となった。 進行食道癌周術期の白血球機能は接着分子発現量で評価すると、化学放射線療法の影響で低下よりもむしろprimingされ、手術侵襲では上昇しなかった。経口摂取の有無により差が認められたことは、近年提唱されている腸管利用による免疫能への好影響を示唆する所見であると考えられた。今後さらに動物の侵襲モデルで検討を重ねる予定である。
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