研究概要 |
平成8年度はまず侵襲下における白血球の動態と接着分子の変動を検討するために、高度侵襲手術として食道癌手術を、中等度侵襲手術として幽門側胃切除術を選び、両者の集術期における末梢白血球表面の接着分子の推移を比較検討した。幽門側胃切除症例では術前と術後の接着分子発現量に有意差を認めなかったが、侵襲の大きい食道癌症例では術前が高値であり、術後に低下して術前値との間に有意差を認めた。 平成9年度にかけては食道癌患者のとくに術前からの白血球のprimingについて着目した。食道癌症例の術前の接着分子発現量に個体差が大きかったことから、周術期の栄養管理の差による変化を中心にその推移を比較検討した。白血球数とCRP値が術後第3病日に最高値を示したのに対し、接着分子は術前が高値で術後第1,3病日と低下し、8,15病日と漸増した。術前絶食群と経口摂取群で接着分子を比較したところ、術前から第3病日までは術前絶食群が高値の傾向にあったが、経腸栄養開始後の第8,15病日には両群の値は近似となった。術前に絶食状態は接着分子の発現量を亢進させ、術後の経腸栄養による腸管利用は免疫能に好影響を与える可能性が示唆された。次に、ラット腹膜炎モデルを用いて接着分子と活性酸素酸性能を測定する実験を行った。結果として、腹膜炎前後の比較においては腹膜炎後のH_2O_2産生が増加しており好中球の活性化が確認された。また接着分子は腹膜炎後にMaC-1の発現量のみが増加していた。このことから侵襲後においても末梢血中の白血球の全ての接着分子発現量が増加するわけではないことが示唆された。
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