研究概要 |
直腸癌の神経浸潤の予後に及ぼす影響の評価は十分にされていない.その理由は組織染色法,神経浸潤の判定,神経浸潤形式の分類などに差があるためで神経浸潤研究の障害となっている.そこで基底膜構成成分であるlamininの免疫染色により神経浸潤の検討を行った.神経浸潤をlaminin染色で検討することの意義,さらに神経浸潤形式の分類と局所再発との関連性,予後に及ぼす影響について検討した.直腸進行癌157例を対象とした.標本はホルマリン固定パラフィン包埋後, 腫瘍の最深部腸管軸方向で厚さ6μmの連続切片を4枚作製した.この4枚の連続切片にHE染色,鍍銀染色,S-100蛋白染色およびlaminin染色を行い,それぞれの染色性を比較した.さらにlaminin染色による神経浸潤と局所再発,予後について検討した.Laminin染色は神経線維束や神経周膜が明瞭に染色でき,従来の染色法では観察が不可能であった微小な神経浸潤が判定できた.さらにlaminin染色によると神経線維束,神経周膜の両者が明瞭に染色されることから神経浸潤の浸潤形式の検討も可能であり,他の染色法に比べlaminin染色が神経浸潤の判定に最も適切であると考えられた.神経浸潤陽性率は47.8%であり,神経浸潤の浸潤形式の検討では,神経周囲間隙型と混在型が大部分(89.3%)であった.さらに神経浸潤は癌の壁深達度,静脈侵襲およびリンパ節転移と強い関係を認めた.局所再発は16.6%に認められ,神経浸潤陽性では26.7%であり,陰性では7.3%で神経浸潤は局所再発と密接な関係が認められた.7年生存は神経浸潤陽性39%,陰性77%であり有意差を認めた.さらに神経浸潤の有無をDukes分類別に検討した結果,神経浸潤は予後からみるとリンパ節転移と同程度に重みのある重要な予後因子であると考えられた.Laminin染色は,従来の染色法と比較して神経線維束および神経周膜が明瞭に染色され,神経組織の同定と神経線維束近傍に存在する癌細胞の神経浸潤の検討に最も有用であることが示された.さらに直腸癌の神経浸潤は局所再発やリンパ節転移に密接に関与し,予後を左右する重要な因子であるばかりでなく,結果として自律神経温存手術の成績を左右する重要な因子である可能性が高いことが明らかになった.本研究は直腸癌における神経浸潤の意義をlaminin染色により明らかにすることができ,術前術後の補助療法や自律神経温存手術の適応を決定するうえで意義があると考えられた.
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