研究概要 |
ビ-グル犬部分肝阻血モデルを用いて,TAK-044の阻血再灌流障害に対して機能的,形態的に如何なる保護効果を発現するかを検討した。まず,第一段階として,イヌ肝細胞膜画分でのET_AおよびET_B両受容体の存在を証明すべく,ET-1ラベル体を用いた結合阻害実験を行った。この結果,ET_A/ET_B日選択的拮抗薬であるTAK-044はET-1の受容体への特異的結合を濃度依存的に阻害することが証明された。次に,TAK-044を1時間の阻血を加える前に静脈投与(3mg/kg)した群と生食投与群の2群間で再灌流後48時間までの肝機能(ALT,m-GOT,ICG停滞率,総胆汁酸)の推移,門脈圧,肝組織酸素分圧,肝細胞面積,類洞径の比較を行った。その結果,TAK-044投与群では,生食投与群に比べて,部分肝血行遮断中に生じる門脈圧の上昇が抑制され,再灌流後の組織酸素分圧の回復が有意に良好であることが明らかとなった。また,肝細胞障害度の指標となるALT,m-GOT,総胆汁酸の上昇も抑制され,肝微小循環機能の指標となるICG停滞率も有意に良好な回復を示していた。これらの機能面と符合して,阻血により生じる肝細胞腫大,肝類洞径の収縮もTAK-044投与群で有意に抑制されていた。さらに,ブタ肝移植モデルを用いてTAK-044を移植肝の血行再開前に使用するリンス液に投与しておくと,血行再開後の肝細胞質,ミトコンドリア,核におけるCaの上昇が有意に抑制され,肝機能面においても肝細胞障害が抑制されることが判明した。同様のことは,部分肝阻血モデルにおいても確認された。 以上の結果により,肝阻血再灌流後に生じる,肝細胞内のCa代謝障害,肝細胞障害および肝類洞径の収縮に基づく肝微小循環障害が,endothelin receptor antagonistであるTAK-044の静脈投与により有意に抑制されることが明らかとなった。本研究と過去の研究成果を合わせると肝阻血再灌流障害は阻血再灌流後に血管内皮から産生されるET-1の作用をTAK-044で阻害することで抑制されると結論できる。
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