ヒツジを用いてリンパ流の実験を行った。 1、胸管リンパ流の拍動が毎分5-6回の固有のものであることを証明するために、超音波トランジットタイム流動計のロ-パスフィルターの設定を10Hzとして、それを100Hzのディジタル信号でサンプリングしてコンピュータのハードディスクに記録した後に、フーリエ変換を用いて周波数解析を行った。呼吸や心拍とは独立した胸管独自の拍動の存在が認められた。胸管流出部の静脈圧を上昇させることによって、この拍動数は増加した。 2、一般臨床で使用される濃度での種々のカテコラミンに対する胸管リンパ流の変化を測定した。ノルアドレナリン、アドレナリン、イソプロテレノール、ドーパミンにおいて心血管系に有意な変化をもたらす量を投与したとき、胸管リンパ流に有意に影響が現れるのは、ドーパミンだけであった。胸部交感神経の電気刺激で胸管リンパ流量は増加した。 3、肺手術の侵襲で産生されるエンドセリン1の胸管リンパ流量と肺リンパ流量に対する影響を検討した。胸管リンパ流量は低濃度では減少し高濃度では増加したが、急速に高濃度を注入すると減少した。肺リンパ流量は中等量で減少した。 4、肺切除の際、肺静脈は結紮切離され、迷走神経の肺枝はしばしば切断される。この手術操作をモデル化した。下肺静脈の閉塞によって肺リンパ流量は減少して、胸管のリンパ流が増加する傾向が認められた。プローブを装着したリンパ管以外のリンパ管を経由して肺で産生増加したリンパが胸管に流入していることを示唆した。迷走神経肺枝の選択的刺激によって肺リンパ流量が増加する傾向が認められた。縦隔リンパ節郭清のとき迷走神経肺枝を温存することが、術後の肺水腫発生の予防につながる可能性が示唆された。
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