研究概要 |
我々はこれまで誘電特性のパラメータであるloss tangent(tanδ)の極大値(tanδm)の低下が心筋の虚血障害度を反映することを報告している.今回,誘電スペクトル解析システムにより計測された誘電特性のパラメータの動態と再灌流後の心機能との関係を検討し,このシステムの術中心筋保護評価モニタとしての有用性を検討した.まず,実験的に保存中のtanδmの動態と再灌流後の心機能との関係について検討した.ブタ7頭の摘出心を4℃生理食塩水に浸漬保存して,経時的にtanδmを計測し,それぞれ異なるtanδmの低下を示した時点で異所性腹部心移植を行った.保存前に対する再灌流2時間後の左室Eesの回復率(%Ees)と保存中のtanδmの動態との関係を検討した.保存前5.08【・+-・】1.05であったtanδmは保存中(145〜350分),徐々に低下した.保存中に計測されたtanδmの最低値即ち移植前値(2.56〜4.49)と%Eesは有意に相関していた(r^2=0.867,p<0.01).次に臨床例における大動脈遮断中のtanδmの動態について,体外循環離脱後の心機能との関係を検討した.成人開心術7例(59.7【・+-・】21.2歳)を対象とし,遮断中におけるtanδmの変化を測定し,体外循環前に対する離脱2時間後(DOA3or5 γ)の分時左室仕事量の回復率(%LVWI)と遮断中のtanδmの動態との関係を検討した.この際,温度に依存するtanδの変化分を排除するため,常時心筋温を測定し,我々が既に確立した温度補正式を用いてすべての値を心筋温37℃に補正し,同じ基準で比較検討した.遮断直前5.31【・+-・】0.72であったtanδmは遮断中(35〜110分),徐々に低下した.各症例において,遮断中に計測されたtanδmの最低値(3.70〜4.59)と%LVWIは有意に相関していた(r^2=0.960,p<0.01).誘電スペクトル解析システムで心筋保護中の心筋の状態をモニタリングすることにより,再灌流後の心機能を予測しうる可能性が示唆された.
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