研究概要 |
癌抑制遺伝子p53の発現と血管新生促進因子VEGF(vascular endothelial growth factor)の発現の相関を検討するために,当科で切除された非小細胞肺癌32例についてp53およびVEGFの免疫組織学的染色を行った。p53陽性例(p53変異)ではVEGF陽性84.6%と高率であったのに対し,p53陰性例(p53正常)ではVEGF陽性は36.8%と低値であった。すなわち,p53の変異とVEGFの発現には相関があると考えられる。さらに,in vitroにおいて正常なp53遺伝子導入がVEGFの発現に影響を与えるかどうかを検討した。p53遺伝子のコドン254に変異を持つ培養ヒト非小細胞肺癌H226Brにアデノウイルスベクターを用いて正常型p53遺伝子を導入すると,24時間後よりRT-PCRで検出される3種類の異なったスプライスを生じるVEGF mRNAレベルがすべて著しく減弱した。ウエスタン・ブロット解析によるタンパク質レベルの検索でも,p53遺伝子導入後24時間から減弱が認められ,mRNAの変化と一致する結果となった。p53遺伝子を導入したH226Br細胞を封入した膜チャンバーをヌードマウスの背部皮下に移植し、膜表面における血管新生を比較した。コントロールH226Br細胞およびコントロール・ウイルス感染H226Br細胞に比べて,p53遺伝子導入H226Br細胞では著しい血管新生抑制が認められた。今後は,動物レベルにおいて実際の増殖抑制や転移抑制における効果について検討していく。
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