移植臓器が長期にわたって生着している状態すなわち移植免疫寛容状態を次の2通りの方法を用いて作成した。1)同系の雄から雌への皮膚移植を施行し、拒絶反応がおこらない状態にする方法。2)異系の雄から雌への異所性心移植を施行し、モノクローナル抗体を用いることにより寛容状態を導く方法。1)としてLEW.1Wの雄から雌への皮膚移植とLEW.1Aの雄から雌への皮膚移植行った。移植片の生着日数を観察し、末梢血中と末梢組織中のミクロキメリズムをPCR法を用いて経時的に観察した。移植片は両方の系ともに永久生着が認められたにもかかわらず、末梢血中のミクロキメリズムは移植後16週まで観察したが全く認められなかった。一方、末梢組織中のミクロキメリズムは耳介、膝窩リンパ節などの部分に皮膚移植後1ヶ月〜3ヶ月たってから認められた。2)としてLEW.1Wの雄からPVG.1Uの雌に異所性心移植を施行し移植後0日、2日、4日、6日目にIA29、WT1をそれぞれ腹腔内へ投与した群と、同じ系で異所性心移植を施行し移植後0日、2日、4日、6日目にOX38を腹腔内へ投与した群について、移植片の生着日数を観察し、末梢組織中のミクロキメリズムをPCR法を用いて観察した。移植片は両方の系ともに永久生着が認められ、膝窩リンパ節には心移植後数カ月以上たってからミクロキメリズムが認められた。以上のことより、移植臓器が長期にわたって生着している状態すなわち移植免疫寛容状態にあるラットの全身組織中にドナー由来の細胞が末梢血中のミクロキメリズムの有無にかかわらず存在していることが確認された。また、このことより、ミクロキメリズムには2種類の細胞、すなわち、末梢血中のミクロキメリズムと組織中のミクロキメリズムがあり、その細胞動態、由来は異なることが予想される。今後はこの点に注目してさらなる解析を行い、ミクロキメリズムの解明に繁げたい。
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