研究概要 |
胎仔中枢神経系組織の成熟ラット脊髄内移植モデルにおいて,移植組織内への皮質脊髄路の軸索再生を評価するために,蛍光色素DiIのよる皮質脊髄路内軸索の標識に関する予備実験を行った.Xylazine,acepromazine,ketamineカクテルの腹腔内麻酔後に正常成熟Sprague-Dawleyラットを定位脳手術装置に固定し,右後肢皮質運動野(bregma後方2.5mm,正中より右外側に2.5mm)に深さ1mmの小holeを作成してDiI結晶を留置した.DiI標識ラットを経時的に潅流固定し,vibratome横断切片(100μm)を作成して落射型蛍光顕微鏡下に標識軸索を観察した.DiI標識後2週で,左皮質脊髄路が選択的にDiIで標識され、標識軸索は腰髄レベルまで達した.次に,成熟S-Dラットの下位胸髄(T10)に左背側1/4吸引腔(1側皮質脊髄路を含む)を作成し,胎生14日の脊髄組織をsubpialに導入した脊髄内移植モデルを作成した.移植後2ヶ月の組織学的検討では,脊髄内移植された胎仔脊髄組織は宿主脊髄と良好に生着し,宿主-移植境界部に嚢胞形成,明瞭な瘢痕形成などは同定されなかった.後肢皮質運動野をDiI標識した移植ラットではDiI標識の皮質脊髄路からの再生線維が頭側宿主-移植境界部を横断し,胎仔脊髄組織内に伸展するのが観察された.しかし,移植組織を横断して尾側宿主脊髄に到達する標識線維は認められなかった.したがって,脊髄内移植された胎仔脊髄組織は我々がこれまで証明してきた後根神経の再生だけでなく,皮質脊髄路に代表されるcentral axonの再生も支持・促進する環境を提供しうることが証明された.
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