本研究は、フィブリン糊に溶解・吸着させた3種類のneurotrophic factor(NTF)によって、切断された成熟ラット後根神経軸索の脊髄への再生能を検討することを目的に実施された。Neurotrophin-3(NT-3)、brain-derived neurotrophic factor(BDNF)、あるいはciliary neurotrophic factor(CNTF)を含有するフィブリン糊球を成熟ラット腰髄膨大部の左背側1/4吸引腔に脊髄内移植したモデルを作成した。予め切断反転しておいたL5後根神経断端を吸引腔底に併置し、フィブリン糊球と宿主脊髄間に定着させた。移植後1ヶ月から1年後に、移植ラットを随時灌流固定し、calcitonin gene-related peptide(CGRP)免疫組織化学染色を行って宿主脊髄に再生した後根神経軸索を標識した。フィブリン糊球は移植後1ヶ月で殆ど吸収され、後根-脊髄境界部に一部線維性組織として残存するにすぎなかった。CGRP免疫反応陽性の再生軸索は検討した全宿主脊髄内に伸展するのが観察された。NT-3、BDNF、CNTF含有フィブリン糊球を移植したラットでは、再生線維は後根-脊髄境界部横断し、一部のい線維は宿主脊髄内のmotoneuron群に達してmotoneuronの細胞体周囲に緻密な神経束を形成した。一方、NTFを含まないフィブリン糊単体を移植したラットでは、宿主脊髄への再生の程度は僅かであり、後根-脊髄境界部に限局して存在した。定量的画像解析の結果、再生の程度はNT-3、BDNF、CNTF含有フィブリンの移植ラット群間には有意差はみられなかったが、3群ともにフィブリン糊単体の移植ラット群よりは有意に優っており、定性的観察を裏付ける所見であった。今回のin vivo研究の結果から、NT-3、BDNFおよびCNTFは宿主脊髄への後根神経軸索の再生を支示・促進する有力な神経栄養因子であり、フィブリン糊は宿主脊髄へのNTFの徐放効果を発揮する媒体として有用であることを示唆している。したがって、NTF含有フィブリン糊球の脊髄内移植は損傷された脊髄反射弓の再構築の達成に貢献することが期待される。
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