研究概要 |
Cortical spreading depression(CSD)は虚血に対する耐性を誘導することが知られている。CSD誘導3日後に、同側の皮質で局所脳虚血による梗塞巣の縮小、また両側の海馬CA1錐体細胞で一過性前脳虚血による虚血性障害の軽減効果が見られる。一方、脳由来神経栄養因子(brain-deri-ved neurotrophic factor,BDNF)は種々の侵襲から神経細胞を保護する作用を持つことが報告されている。本研究では、BDNFがこの虚血耐性の機序として関与しているか否か、CSD後のBDNFの発現を調べ検討した。CSDはラット脳表をKClにて1時間刺激して誘導し、対象群ではNaCl溶液を用いた。昨年度は、mRNAの変化をNorthern blot 及び in situ hybrid-izationにて検討し、虚血耐性獲得の時期に一致して、皮質にて発現の亢進が見られることを確認した。本年度は、蛋白レベルでELISAにて定量的解析を行った。BDNFの皮質での変化は、12時間、3日と2相性の増加をしめし、mRNAの動きと一致した。海馬では、虚血耐性が獲得されるにもかかわらずBDNFの変化は逆に低下した。一方、脳損傷対象群でも、皮質での軽度上昇と、海馬での減少が生じていた。以上の結果から、CSD後の虚血耐性の発現と皮質でのBDNFのmRNA及び蛋白レベルでの変化は時間的に相関し、耐性獲得の一つの機序として関与している可能性が示唆された。一方、海馬では蛋白レベルで減少しており、BDNFの関与は否定的である。
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