研究概要 |
本研究では、一酸化窒素(以下NO)の培養神経膠腫細胞に対する増殖抑制作用と放射線増感作用を調べた。NO発生剤としてS-nitroso-N-acetyl-penicillamine(以下SNAP)とsodium nitroprusside(以下SNP)を用い、ヒトおよびラット神経膠腫細胞(T98G,U87,C6)の増殖に及ぼす影響を調べた。SNAPとSNPは、水溶液として培地中に添加すると濃度依存性にNOを発生することが明らかとなった。さらにこれら薬剤は全ての細胞株の増殖を濃度依存性に抑制した。この細胞増殖抑制作用は、NO吸着作用のある牛ヘモグロビンの前投与によって著しく減弱した。したがってNO発生剤によるグリオーマ細胞の増殖抑制作用は、NOそのものの作用であることが示唆された。次にNO発生剤のC6細胞の放射線感受性に及ぼす作用を検討した。培地中に薬剤添加直後にX線照射を行い、その後形成されるコロニー数から評価した。その結果、SNAPあるいはSNPの存在下では、X線照射後のC6細胞のコロニー形成率は濃度依存性に低下し、160muMのSNAPおよびSNPはC6細胞の放射線感受性を2-3倍に高めた。以上の結果からNO発生剤であるSNAPとSNPは悪性神経膠腫の増殖抑制に働き、放射線増感剤としても有望であると考えられた。近年NOは腫瘍内の血流の調節因子として注目され、NO発生剤投与でin vivoの腫瘍内血流が増加したとの報告もある。したがってNOを有効に用いることにより、悪性神経膠腫に対する薬剤到達性や酸素化の改善がなされ、放射線化学療法の有効性を高めることが期待される。
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