C6グリオーマ細胞をラット脳に移植し、2週から4週の間、腫瘍組織内の各免疫学的パラメーターの動向を経時的に検討した。免疫組織化学的検索およびフローサイトメーターによる検索ではMHC class II、CD4(ヘルパーT)細胞、CD8(殺腫瘍T)細胞の浸潤およびiNOS陽性細胞数、IFNγ陽性細胞数は2週後にピークを示し、以後漸減した。一方、免疫抑制性サイトカインであるTGFβ陽性細胞数は2週後より増加した。各陽性細胞の同定では、MHC class IIはperivascular cell、macrophage、microgliaの順に発現が高く認められ、iNOSは主にmacrophageに、IFNγはCD4陽性T細胞とmacrophageに、TGFβは腫瘍細胞とmacrophageに認められた。ヒト・グリオブラストーマ手術摘出標本における検討ではMHC class IIは血管周囲のperivascular cellにもっとも強く発現され、次いで腫瘍組織内に分布するmacrophage、microgliaに発現が見られた。腫瘍組織浸潤Tリンパ球は血管周囲に多く分布した。iNOSはmacrophageに発現しており、TGFβは腫瘍細胞に陽性であった。これらの所見はラット脳腫瘍モデルで得られている結果とほぼ同様の傾向を示した。以上の結果より脳腫瘍における腫瘍免疫の機序のひとつとして以下のことが推察される。perivascular cellが腫瘍抗原を捕捉し、抗原提示細胞としてTリンパ球の腫瘍組織への浸潤を誘導し、macrophage、microgliaがさらに、抗原刺激を補強する。また、macrophageはNO産生により抗腫瘍性に作用する。しかし、これらの抗腫瘍性免疫反応は腫瘍細胞から産生されるTGFβにより抑制される。perivascular cellはMHC class IIを迅速かつ広範囲に発現することより、脳腫瘍免疫の初期段階で反応を強化促進する役割をもつものと考えられる。
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