研究概要 |
脳虚血は虚血巣ならびにその周辺に強い浮腫を惹起し、頭蓋内病態悪化の大きな一因になる.現在の脳梗塞治療の主体は脳浮腫の治療といえるほどである.虚血性脳浮腫は従来,細胞膜イオンポンプ障害による細胞外ナトリウムの上昇が主因と考えられている.しかし近年,無機イオンの他,アミノ酸,メチルアミン,ポリオールなどの有機低分子が生体細胞の体積調節に重要な役割を果たしていることが明らかとなり,有機オスモライトと呼ばれるようになってきた.このような有機オスモライトが虚血性浮腫病態にどのように関与するかはまだ明らかでない.そこで本研究では,ラット中大脳動脈閉塞による不完全局所脳虚血モデル,および断頭による完全全脳虚血モデルにおいて脳の過塩素酸抽出物の^1H磁気共鳴スペクトロスコピーを行い,各種有機オスモライトおよび脳水分含量を測定した.脳水分含量は不完全局所脳虚血モデルでは虚血側で対側に比べ有意に増加したが(p<0.0001),完全全脳虚血モデルでは増加しなかった.有機オスモライトは不完全局所脳虚血後6時間から24時間にかけて多くが減少傾向を示し,24時間後の有機オスモライト総和は虚血部位で非虚血部位の58.7%まで低下した(p<0.005).アスパラギン酸,グルタミン酸,N-アセチルアスパルテートなどのアミノ酸,およびクレアチンの減少がとくに有意であった.これに対し,完全全脳虚血モデルでは有機オスモライトの変化は様々であり,総和として増減しなかった.すなわち,強い脳浮腫をきたす不完全局所脳虚血モデルでは無機イオンについてはその蓄積が脳浮腫増強要因と考えられるのに対し,有機オスモライトは総和が減少し,脳浮腫緩和要因となることが示された.このような有機オスモライトの変化とそのメカニズムの解明は,性脳浮腫の病態解明ならびに治療に新たな展開をもたらすものと考えられる.
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