現在神経系の細胞移植の臨床応用では、新鮮な胎児神経組織を随時利用するのが唯一の方法であり、本邦では倫理的間題が多く、胎児組織に代る細胞種の確立が課題となっている。本年度はこれまでの研究を発展させ、新たなドナー細胞候補として、神経細胞へ分化誘導可能なヒトteratocarcinomaに注目し、その神経細胞としての機能を電気生理学的に解析した。 まず、ヒトteratocarcinoma cell line(NT2)細胞の培養、神経細胞への分化誘導はretinoic acidを用いPleasureらの方法で行った。神経伝達物質受容体の発現はwhole-cell patch-clampで検索し、GABA_A受容体に関してはoutside‐out patch‐clamp法でsingle channel recordingを追加した。 NT2細胞おいてはプリン受容体(P_<2Y>)アゴニストにのみ反応が認められた。分化誘導された細胞(hNTn細胞)は形態学的に神経細胞に類似し、多数の軸索様突起が認められた。hNTn細胞は電位依存性Na^+電流が認められ、NMDA、カイニン酸投与により下向き電流が誘発され、NMDA受容体、AMPA/kainate受容体の発現が示唆された。また、GABAでも下向き電流が誘発され(Fig.2.a)、この電流は2つのコンダクタンスを有するsingle channel currentsから形成されていた。これらの反応はGABA_A受容体拮抗剤であるビククリンにて抑制され、hNTn細胞にはGABA_A受容体も発現していることが判明した。 本年度の研究により、腫瘍細胞NT2細胞が分化とともに神経細胞としての特性が発現することが明らかとなった。hNTn細胞にNMDA受容体、AMPA/kainate受容体が発現していることは既に報告されているが、GABA_A受容体発現の証明は本報告が初めてである。神経伝達機構において最も重要な興奮性、抑制性神経伝達物質受容体が当細胞に発現していることは興昧深く、移植応用可能なヒト神経細胞として期待が持たれる。現在ラット脳内移植後の機能的評価の研究を継続中である。
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