平成8年度に家兎を用い軟膜下皮質多切術(MST)の実験的有効性を証明したので、本年度は臨床的に難治性てんかん症例に対しMSTを施行し、その有効性を検討した。対象は難治性てんかん症例6例(年齢13才〜39才、男性1例、女性5例)。てんかんの原因は、周産期脳血管障害2例、皮質形成異常、脳炎、血管腫および原因不明各1例であった。6例のてんかん焦点は前頭葉3例、頭頂葉2例、側頭葉1例であった。前例開頭による硬膜下電極留置を行い、1週間から10日間の持続脳波記録により発作起始部位(焦点皮質)を同定した後、再開頭を行いてんかん根治手術を施行した。6例ともMST施行後、術中皮質脳波で明らかな棘波の消失または軽減が認められた。結果は焦点切除とMTSを組み合わせた2例で発作消失、MSTのみ施行した1例で90%発作減少、MTSと脳梁離断術を行った2例およびMSTと皮質焦点切除術を行った1例で70〜80%の発作減少と良好な結果が得られた。またMSTによる合併症は1例も認められず、13才の2症例では、術後精神運動機能の改善が認められた。以上の結果よりMSTの臨床的有効性が証明された。さらに我々の剖検脳における検討より、MSTの施行が困難な脳溝埋没後に位置する皮質が大脳円蓋部で54.9±7.2%存在することが確認され、今後MSTの効果をさらに高めるには、脳溝埋没部皮質に対するMST手技の工夫が重要と考えられた。
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