研究概要 |
近年運動、感覚、言語領野などの切除不可能な皮質に焦点を持つ難治性てんかんに対し、外科的治療として軟膜下皮質多切除(MST)が用いられているが、本法の有効性に関する実験的裏付けは十分なされていない。また臨床面においても、症状の改善よりのみ有効せいが示されているが、MST前後での血流、代謝変化に関しては検討されていない。そこで今回我々はMSTの有効性を実験的および臨床的検証すべく研究をお子名多。まず実験的には、家兎を全麻下に開頭を行い、皮質を50Hz,8mA,10秒間で15回電気刺激し、MST施行群(n=7)と対照群(n=7)で後発射持続時間の差を検討した。その結果MST施行群で後発射持続時間の有意な短縮が認められ、MSTの有効性が電気生理学的に示された。またアミノ酸測定では対照群でグルタミン酸の上昇を認めたが、MST群では上昇が軽度であり、MSTにより興奮性アミノ酸の上昇がやはり抑制されることが示された。組織学的検討ではMSTにより、神経線維のうち水平線維は断裂されているが、垂直線維は温存されている保健が確認された。 臨床的には、6例に対しMSTを施行した。焦点切除とMSTを組み合わせた2例で発作消失、MSTのみ施行した1例で90%発作減少、MSTと脳梁離断術を行った2例およびMSTと皮質焦点切除を行った1例で70波80%の発作減少と良好な結果が得られた。6例ともMST施行後、皮質脳波で明かな棘波の消失または軽減が認められた。またMSTによる合併症は1例も認められなかった。 以上の結果よりてんかん手術としてのMSTの実験的および臨床的有効性が証明された。さらに我々の剖検脳における検討より、MSTの施行が困難な脳溝埋没部に位置する皮質が54.9±7.2%存在することが確認され、今後MSTの効果をさらに高めるためには、脳溝埋没部皮質に対するMST手技の工夫が重要と考えられた。
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