研究概要 |
申請者らは平成7年度以降頭蓋内圧亢進および水頭症の病態を分子生物学的手法を用い検討してきた。その一貫として,1)ラット頭蓋内圧亢進時の,CNP,およびCNPの受容体であるGuanylate Cyclase-B (GC-B)のmRNAの発現の変化,2)ラットにおける頭蓋内圧亢進時のc-fos, c-jun等immediate early gene (IEG)の発現の変化,3)カオリン水頭症ラットhippocampasにおけるhsp, bcl-2, bax mRNAの発現の変化,の3つを研究目標とした。平成8年度はこのうち2), 3)に関し,新たな知見が得られた。 2) ICP亢進時の遺伝子レベルでの神経細胞応答を明らかとする目的で,ラットICP亢進モデルを用いIEGの発現を観察した。ラット大槽内にチューブを留置し人工髄液の入ったボトルへ接続,この高さを変えることによりICPを変動させた。高度ICP亢進群でI両側大脳皮質,歯状回を中心にEGの有意な発現を認めたが中等度ICP亢進群では認められなかった。高度ICP亢進群ではCBFが有意に低下し虚血状態となっていた。今回の結果から神経細胞はCBFの保たれる中等度ICP亢進にはよく耐え得るが,CBFの低下する高度ICP亢進時には神経細胞応答のmediatorと考えられるIEGが発現することが明らかとなった。 3)水頭症に伴う痴呆症状にhippocampal formationが関与していることが示唆されている。今回ラットカオリン水頭症モデルにおいて,同部での遺伝子応答の有無を検討する目的でhsp, bax, bcl-2 mRNAの発現の変化を観察した。今回の結果から,脳室拡大が著明に進行した亜急性期(10-12日)において,歯状回にhsp, baxのmRNAが発現することが明らかとなった。septal nucleiから歯状回へのpathwayは脳室拡大に伴い著明に伸展されており,この系のdeafferentiationが歯状回でのhsp, bax mRNAの発現の主な要因と考えられた。hspは,種々のbrain damageに対するneuronal stress responseのマーカーとして用いられており,baxは,apoptosisを誘導する遺伝子として知られている。このような遺伝子応答が生じていることは,歯状回において何らかの機能的障害や,apoptosisが生じている可能性を示唆するものと考えられた。
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