最も重症の脳損傷であるびまん性脳損傷において、損傷後に活性化されてくる神経再生、可塑性に密接に関わる未知の遺伝子をクローニングすることを最終目的とし、今年度は、その方法論の確立を目指して研究を行ってきた。RLGS (Restriction Landmark Genomic Scanning)法に関してはHayashizakiらの方法を部分的に変更して行った。 近年、ゲノムDNAのメチル化状態が遺伝子の転写調節に大きな役割を果たしていることがわかっている。そこで、われわれが開発したラットびまん性脳損傷モデルを用い、損傷後に新しく活性化、もしくは不活性化された遺伝子を、DNAのメチル化の変化を標的にクローニングするというのが本法の原理である。具体的には、脳損傷ラットの脳から抽出したDNAをメチル化感受性を持った制限酵素(認識配列中の一部がメチル化されていると切断できなくなるという性質を持った制限酵素)で切断し、断端をジゴキシゲニンdUTPでラベルした。このDNAを二次元電気泳動し、アルカリフォスファターゼを結合した抗ジゴキシゲニン抗体を用いた発光システムを用いてX線フィルム上にスポットとして焼き付け、ゲノムDNA上のメチル化に変化を生じた部位を検索した。 原法ではラジオアイソトープを用いてラベリングを行っているが、今年度われわれは上述したような非ラジオアイソトープ的方法を用いて、原法と同様のはっきりしたスポットを得る方法を確立した。非ラジオアイソトープ的方法は、今後の世界的動向に鑑みると極めて重要なことと考えられる。 来年度は、ラットびまん性脳損傷モデルにおいて、受傷後経時的にゲノムDNAのメチル化の変化を追い、活性化、もしくは不活性化された遺伝子をクローニングし、その中で神経再生、可塑性に密接に関わると考えられる遺伝子について機能的解析を進めていく予定である。
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