我々は従来から、ヒトのびまん性軸索損傷(diffuse axonal injury)と酷似した病理組織学的所見を呈するラット脳損傷モデルの作成に成功し、分子生物学的、記憶行動学的検索を始め、様々な角度から研究を続けてきた。そこで今回の研究助成を得て、このラットびまん性軸索損傷モデルの脳損傷から回復する過程における、神経再生および神経可塑性を司る未知の遺伝子を発見しクローニングすることを最終目的として研究を行った。本研究設備備品として新たに購入したゲノムスキャン二次元電気泳動装置を用い、Hayashizaki等によって開発されたRLGS(Restriction Landmark Genomic Scanning)法を改変して用いた。近年、遺伝子DNAのメチル化、脱メチル化が遺伝子発現の制御機構として重要な役割を果たしていることが注目されており、RLGS法はゲノムDNAのメチル化の変化をスクリーニングする方法である。原法ではメチル化感受性制限酵素(その制限酵素に特異的な配列であっても、一部の塩基がメチル化されているとそのDNAを切断できなくなるような制限酵素)でゲノムDNAを切断後、ラジオアイソトープで切断断端を標識するのだが、我々はその代わりにジゴキシゲニンddUTPを用いて標識し、抗ジゴキシゲニン抗体を用いた発光反応を用いて、非ラジオアイソトープ的方法による検出システムを確立することを最初の課題とした。すなわち、ゲノムDNAの標識後原法通りに一次元泳動を行い、二次元泳動には8%ポリアクリルアミドゲルを用いた。ゲルをアルカリフォスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体で処理し、最後に発光基質を反応させて高感度フィルムを感光させることによってスポットの検出に成功した。次にラットびまん性軸索損傷モデルにおけるスクリーニングに入った。最も神経突起の新生が盛んな時期として受傷後18日目、および神経連絡の再構成が盛んになる時期として受傷後25日目をターゲットとして選び、それぞれのスポットパターンを受傷後7日目と比較した。それぞれ数個の新たなスポットの出現を認め、現在それらをクローニングして塩基配列の決定を急いでいるところである。
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