研究概要 |
1.低温度による局所脳虚血後の脳梗塞の縮小効果の確認 まず最初に、ナイロン糸の頚動脈内挿入による局所脳虚血モデルにおいて、低温度の脳保護効果を確認する実験をおこなった。旗のSprague-Dawleyラットを用いて、ハロセン麻酔下にナイロン糸を左総頸動脈内に挿入した。約20%の動物でナイロン糸の挿入が充分にはできず、それ以上の実験をおこなえなかった。糸の挿入に成功した動物では、そのまま2時間のあいだ体温を37.5℃,33℃,30℃にコントロールした。2時間後に体温のコントロールを終了し、ナイロン糸を抜去した後に動物を覚醒させ、神経学的評価をおこなった。虚血開始から24時間動物を生存させると、このモデルでは虚血範囲が広範なため、約10%の動物で死亡する例がみられた。24時間生存した約70%の動物を断頭し、脳を取り出して厚さ2mmの8枚のスライスとし、TTC染色をおこなって脳梗塞の部分を描出した。イメージスキャナーで染色した脳切片の画像を直接コンピューターにとりこみ、脳梗塞面積をそれぞれのスライスで測定し、梗塞体積を計算した。以上の実験の結果、低体温群では梗塞体積の小さい傾向が認められた。すなわち、ナイロン糸を使った脳虚血モデルにおいて、軽度の低温度による脳保護作用が確認された。 2.セレクチンの合成オリゴペプチド投与による脳梗塞縮小効果 次に、セレクチンの合成オリゴペプチド投与による白血球の血管内皮への接着の防止が、上記と同じ脳虚血モデルにおいて脳梗塞体積に及ぼす影響を検討した。上記と同様の実験系で、虚血前にセレクチンの合成オリゴペプチドを投与したところ、やはり約20%の動物で虚血にならない例、約10%に24時間生存できない例が認められた。約70%の動物において合成オリゴペプチド投与の脳梗塞体積への影響を検討したところ、有意な結果は得られなかった。 現段階では、以上の結果が得られたので報告する。金属クリップによる局所脳虚血モデルと異なり、ナイロン糸、挿入モデルでは、セレクチンの合成オリゴペプチドが脳保護効果を示さなかった理由は、虚血範囲、程度の差によるものと考えられた。
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