平成8・9年度までの結果で砂ネズミで選択的カルパイン阻害剤N-acetyl-leu-leu-norleucinalをリポソームに包埋して虚血前に経静脈的投与する事により海馬CAl神経細胞の虚血性細胞死を予防でき、かつカルパインよる神経細胞骨格のフォドリン分解が防止できる事が免疫組織学的に証明できた。本年度は後者の結果を裏づけるためリポソーム包埋カルパイン阻害剤投与後4時間、7日目に海馬を摘出し免疫ブロットを行いフォドリン分解が抑制される事を定量した。カルパイン阻害剤投与群は非投与群と比較し阻害剤投与後4時間、7日目ともに有意にフォドリン分解が低下していた。このことからカルパイン阻害剤が海馬神経細胞でカルパイン活性を抑制していることが定量的に示された。またカルパイン阻害剤が実際に海馬CAl細胞に取り込まれているのを確認するためリポソーム包埋カルパイン阻害剤に蛍光物質FITCをラベルし、正常砂ネズミ群(偽手術施行)と虚血群に偽手術または虚血30分前に同剤を投与、偽手術または虚血30分後脳を摘出、クリオスタットで海馬薄切片を作製、共焦点レーザー顕微鏡でその切片を観察した。正常・虚血群ともに海馬CAl神経細胞に明瞭なFITCの蛍光を検出できカルパイン阻害剤が神経細胞に取り込まれていることを実証できた。以上より選択的カルパイン阻害剤N-acetyl-leu-leu-norleucinalは砂ネズミの一過性前脳虚血による海馬遅発性神経細胞死を神経細胞に実際に取り込まれカルパインによる細胞骨格分解を抑制することにより、その死を予防することが証明された。
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