砂ネズミの両側総頸動脈を5分間閉塞させ一過性前脳虚血を作成すると虚血後3日より海馬CA1領域の錐体神経細胞に選択的な細胞死(遅発性神経細胞死)が観察される。この発生にカルシウム依存性プロテアーゼのカルパインが関与していると考えられ、それをカルパイン阻害剤を使い調べた。 [方法] 実験系は次の4つよりなり実験動物には砂ネズミを使用。1)虚血前30分に選択的カルパイン阻害剤(N-acetyl-Leu-Leu-norleucinal)をリポソームに包埋し大腿静脈内投与で海馬CA1神経細胞の遅発性神経細胞死が予防できるか?2)虚血時カルパインにより神経細胞骨格のフォドリンが分解されるが選択的カルパイン阻害剤はこの分解を阻止するか?(免疫組織染色とウエスタン・ブロットで検討)3)選択的カルパイン阻害剤は本当に海馬神経細胞内に取り込まれるか?(選択的カルパイン阻害剤に蛍光物質のFITCをラベルし投与、レーザー顕微鏡でその蛍光を調べる)4)カルパインの内因性阻害物質のカルパスタチンは虚血時どのように変動するか?(カルパスタチンの免疫組織染色とウエスタン・ブロットで検討)について調べた。 [結果] 1)選択的カルパイン阻害剤は用量依存性に海馬CA1神経細胞の遅発性神経細胞死を予防したが60mg/mgで約1/2しか生存させえなかった。2)選択的カルパイン阻害剤はフォドリンの分解を用量依存性に抑制し60mg/mgでほぼ完全に抑制した。3)海馬神経細胞内にFITCの蛍光を認めた。4)カルパスタチン発現は虚血後海馬CA1神経細胞で直後一過性に上昇するが24時間以後には減少した。 [考察] 選択的カルパイン阻害剤は脳虚血による遅発性神経細胞死を予防するがカルパイン活性を100%抑制する量でも神経細胞死は50%しか予防できず、その発生原因にはカルパイン活性化以外のメカニズムも関与している可能性が示唆された。また内因性阻害物質のカルパスタチンは虚血後発現が一過性に増大するがその後減少しカルパインの活性化を抑制しきれないと考えられた。
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