研究概要 |
適度な機械的刺激は腱組織の健康の維持に重要である。また細胞カルシウムイオン濃度調節機構は細胞の最も原始的な刺激応答のメカニズムである。生きた状態の腱に適度な牽引力を加えると腱内の細胞が変形し、細胞質内のカルシウムイオン濃度が上昇するが、このカルシウムイオンの由来を明らかにすること、強力な張力刺激は細胞を破壊するがその限界強度を明らかにすることが目的である。本研究は腱、靱帯に対する手術的療法における至適張力の決定や、理学療法に理論的根拠をもたらす。 平成8年度に、腱をmedia内につけたまま牽引し観察する装置(KKKS-001)を開発した。10匹のラットを屠殺した直後に尾の腱を採取し、長さ約55mmに切断し、37℃でFluo3-acetoxymethyl(AM)を溶解し10μMとしたM199media内に60分間つけて染色した。この腱をKKKS-001に装着し、腱に牽引を加えながら蛍光顕微鏡下に腱線維芽細胞の変形と細胞内カルシウムイオン濃度の変化を観察した。2%stretch(全長が2%延びるだけ緊張を加えた状態)における、腱内の細胞の変化を写真撮影し、変形の度合いとカルシウムイオン濃度を測定した。その結果、腱を牽引することにより、細胞の横径は減少、縦径は増大し、それぞれ牽引前の値と、牽引下の値の間に有意の差を認めた(p<0.05,p<0.02)。細胞内のカルシウムイオン濃度は上昇した。今後はARUGUS/HiSCA(浜松フォトニクス社製)を用い、ダイナミックな反応を検出する。さらに、腱線維芽細胞の細胞膜張力依存性のカルシウムイオンチャンネルに影響を及ぼす薬剤について検討する。
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