研究概要 |
【目的】関節拘縮は関節外傷や手術後に頻発し、治療に難渋する合併症であるがその発生機序は不明で、治療法も確立していない。本研究の目的は関節線維化の機序を明らかとし、治療法の確立に役立てることである。 【方法】前十字靭帯損傷後5日から10カ月経過した26膝より靭帯再建時に膝蓋下脂肪体滑膜を採取し、線維化に関係するサイトカイン(PDGF-Β,TGF-β)の発現と局在を検討した。次に時下膝蓋により前十字靭帯を再建したPT群12例、半腱様筋、薄筋腱を使用しtST群14例より再建時に膝蓋下脂肪体滑膜を採取し、HE染色、Sirius red染色による線維化の程度と推移を検討し、臨床成績との関係も検討した。 【結果】組織学的検討から前十字靭帯損傷後の膝関節滑膜は経時的に線維化することが明らかとなった。検索した全期間に於いてPDGF-ΒとTGF-βは線維化が進行していると考えられる部位の線維芽細胞に認められ、線維化の進行との関連が示唆された。前十字靭帯再建術の前後の滑膜の組織学的検討では、術後広範に線維化が進行し、Sirius red染色では線維化した部位に一致して多量のcollagenが沈着していることが明らかとなった。再建術で採取時に膝蓋下脂肪体滑膜を損傷する可能性のあるPT群ではその可能性のないST群と比較して線維化の進行を認めた。運動時の疼痛を訴える例に於いては有位に線維化が進行し、しゃがみ込み動作に支障を感じている例では線維化が進行している傾向が認められた。 【考察】以上の結果より滑膜の線維化にはこれまで研究され明らかにされてきた肝硬変や肺線維症などの線維化の機序と共通のメカニズムが働いていることが示唆された。また線維化の際産生されるPDGF-ΒとTGF-βなどサイトカインを制御することにより線維化の進行を抑制し、関節拘縮を予防することができるものと推察した。
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