関節軟骨表面のコラーゲン線維と細胞を欠く『(無定形)最表層』は、軟骨の基質であるプロテオグリカンからなり、関節の潤滑に寄与し、外来性酵素の侵襲から軟骨を保護している。ウサギの膝の関節表面を擦過し最表層を削除したところ高率に変形性関節症を生じた。その発生頻度には擦過範囲の大小が強く影響していた。擦過範囲が狭い場合は関節症の発生率が低くかった。この結果を受けて、擦過する範囲の大小によって、変形性関節症を生じる群と生じない群をつくり、変形性関節症の発生機序と最表層の関係を調べた。 成熟ウサギを用いて、擦過範囲を大腿骨関節面の中央3分の1の部分に限定した群と、大腿骨関節面のほぼ全域を擦過した群をつくり比較した。その結果、擦過範囲を大腿骨関節面の中央3分の1の部分に限定した群では関節症の発生がなかったが、大腿骨関節面のほぼ全域を擦過した群では高率に変形性関節症を生じた。凍結走査電子顕微鏡による観察では、擦過範囲の狭い群では、擦過部の軟骨表面に最表層様の無定形物質を認めた。この無定形物質の出現の時期は、擦過後1週間以内の早期であり、この時期には擦過によって障害された関節の摩擦係数が回復していた。免疫生化学的な検討では、最表層様物質には、プロテオグリカンコア蛋白、ケラタン硫酸が存在しており、軟骨のプロテオグリカン類似の物質であることが解った。これは、正常の関節軟骨の最表層を構成する物質とほぼ同様の組成であった。透過電子顕微鏡による観察では、擦過部およびその周囲の軟骨細胞の細胞内器官の発達が見られ、擦過に対応して最表層様物質の産生が高まっているものと考えられた。大腿骨関節面の広範囲を擦過した群では、変形性関節症を高率に発生した。擦過した軟骨表面には最表層様の構造を認めず、悪化した関節の摩擦係数の回復が不良であり、関節症性変形が進行した。 以上より、関節軟骨の最表層を擦過によって削除した場合、最表層の再生の有無が関節症の発生の有無と関連していることが示唆された。軟骨の最表層の再生の有無には、擦過範囲が関連しており、擦過範囲が狭い場合は、活性化した軟骨細胞からの分泌によって最表層が修復され軟骨の進行性の変性を生じない。擦過範囲が広い場合は、この軟骨細胞による最表層の修復が見られず、軟骨の変性破壊が進行することが多いと考えられた。
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