研究概要 |
脱出型ヘルニア組織における免疫組織学的検討においては、ヘルニア組織周辺に炎症細胞浸潤が見られ、これらは炎症性サイトカイン(IL-1,TGF-β)および蛋白分解酵素であるマトリックスメタロプロテナーゼ1,3(MMP-1,3)とそのインヒビターであるTIMPに対する抗体で陽性に染色された。一方、非脱出型ヘルニア組織では炎症細胞浸潤をほとんど認めず、どの抗体のも陰性であった。また、脱出型ヘルニア組織から分離培養して得られた細胞は、非脱出型ヘルニア組織から得られた細胞に比べて、炎症性サイトカイン(IL-1,TGF-β)刺激下で有意に多くのMMP-1,-3およびTIMPを産生し、MMP-3/TIMP比も増加していた。さらに、この炎症性サイトカイン刺激後、脱出型ヘルニア組織からの培養細胞の核はv-fos蛋白に対する抗体で陽性に染色された。 蛋白分解酵素(MMP-1,3)は関節軟骨の変性、破壊に重要な役割を果たし、インヒビターであるTIMPとの均衡のくずれがさらなる変性、破壊へと導く事が報告されているが、今回の研究から脱出型ヘルニア組織周辺に頻繁に見られる肉芽組織においてもMMP-1,3とTIMPが存在し、これらが今回の研究目的である脱出型ヘルニア組織の縮小化および吸収消失に関与していると考えられた。そして、その産生は肉芽組織中の炎症性サイトカインによって促進され、MMP-3/TIMPの不均衡へと導く可能性が示唆された。また、一般的にc-fos蛋白はMMP-1,3遺伝子を活性化するといわれているが、脱出型ヘルニア組織においてもc-fos蛋白がMMP-1,3の産生促進に関与している可能性が示唆された。
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