過伸展ストレスが肩関節におよぼす影響を調査することで、肩関節痛が発生する機序について検討した。動物実験では、Lewis ratを用いて牽引負荷が腱板の血流に対してどのような影響をおよぼすかを水素クリアランス法とLaser doppler flowmetry(ADF21D Advance co.)を用いて調査したが、血流に関しては一過性に上昇して低下するものや、一定しないものがあり、血流だけでは明確な変化は捕えられなかった。しかし、4匹のratで交感神経の活動性をpower spector解析による高速フーリエ交換で測定すると、65gないし100gの負荷で交感神経の活動の亢進がみられるもののそれ以上の負荷では亢進はプラトーあるいは減少に転じているという興味深い結果が得られた。神経分布については、神経終末などの分布については、牽引ストレスを加えたことでの変化は認められなかった。実際の症例ではLaser doppler flowmetryを用いて28例の腱板の血流を測定したが、牽引ストレスを加えると一過性に血流の増加が起り、それに引き続きすみやかな血流の低下が認められた。血流はストレス前よりやや低下したが、すぐにほぼ安静時の血流に戻った。牽引をやめても血流の低下が改善しない例が4例あった。実際の症例で組織学的検索を行った6例では、神経終末などの分布の違いはあったが、血流の変化との関連性はなかった。不安定性との関連性も不明であった。腱板の血流が牽引ストレスで著しく変化することは証明されたが、そのことと肩痛発現の関連性は明らかでなかった。今後、腱板が人間により類似した動物を用いて、実験することでその疑問点が明らかになる可能性があるのではと思われた。
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