本研究の目的は椎間板組織が疼痛を惹起するか、その発現に如何なる化学物質が関与するかを検討することにあった。ラット尾椎より摘出した椎間板組織の腰椎脊髄神経根留置により患側足部に痛覚過敏が出現した。すなわち、髄核移植により圧刺激に対する痛覚過敏が、線維輪移植により熱刺激に対する痛覚過敏がそれぞれ出現した。硬膜外ステロイド投与にて髄核による痛覚過敏の改善がみられたが有意な変化ではなかった。一方、phospholipase A_2の拮抗薬であるメパクリンの硬膜外投与により圧刺激に対する痛覚過敏は消失した。線維輪を含む椎間板組織の移植では圧刺激に対する痛覚過敏は認められなかった。しかしながら一酸化窒素合成酵素の拮抗薬であるL-ニトロアルギニンメチルエステル(L-NAME)投与にてはじめて痛覚過敏が出現した。また、線維輪移植でみられた熱刺激に対する痛覚過敏は硬膜外へのL-NAME、生理食塩水投与にて消失した。自家椎間板組織により動物における疼痛行動の指標である痛覚過敏が出現することならびにその痛覚過敏発現にphospholipase A_2、一酸化窒素が関与することが判明した。すなわち、自家椎間板組織は神経根の機械的圧迫なしに疼痛を発現せしめることが明白となった。また、生理食塩水投与による痛覚過敏の改善はこれら以外の化学物質の関与や機序を示唆している。今後は臨床でみられる神経根の機械的圧迫そのものが神経根性疼痛にどのような関与するかを検討し、さらにphospholipase A_2、一酸化窒素の定量のみならず他の化学物質の関与の有無、脊髄レベルでの影響について検討する予定である。
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