社会情勢からネコの使用が困難となっているため容易に入手できるratを用いた。側彎ratの脊椎牽引実験に先立ち、対照群として正常ratで実験を行った。正常ratで脊椎を漸増的に牽引する実験を行い、脊髄モニタリングの変化を観察した。1.5mmキルシュナーワイヤーをratの第1腰椎と腸骨に刺入しこれをmini Hoffman創外固定器に装着した。ratの頭蓋骨電気刺激による下肢筋活動電位(TCE-MEP)および本研究費で購入した磁気刺激装置を使用して頭蓋骨磁気刺激による下肢筋活動電位(TCM-MEP)を記録し、脊髄モニタリングを行いながら脊椎牽引を行った(n=10)。mini Hoffman創外固定器で脊椎に5分間に1mmの速度で漸増的に牽引力を加えながら、各MEPを測定した。MEPに振幅50%以上の低下(1群)、振幅消失(2群)、を認めた時点で牽引を中止し、牽引終了時の腰椎腸骨間距離を牽引開始時のそれで割った値(牽引率)を算定した。牽引をそのまま保持しratを麻酔から覚醒させ、下肢の運動機能を1.normal 2.motor useful 3.motor useless 4.paraplegiaの4段階で評価した。その結果1群の牽引率は110%、2群は112%であった。下肢運動機能は1群では全例normalであった。2群ではnormal 4例、motor useful 5例、motor useless 2例であった。すなわち各MEPによる下肢運動機能モニタリングは振幅の消失をもって危険域とできること、振幅が50%以上あれば運動機能は正常である可能性が示唆された。 今後は片側広範囲肋骨締結法で作成した側彎ratに対して同様の牽引実験を行い、振幅を快復させうる手術操作(牽引解除、椎弓根切除など)を検討することにより側彎症矯正手術時の神経合併症発生のメカニズムを明らかにしたい。
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