側弯症術中の神経合併症発生の機序は臨床報告から頂椎椎弓根による脊髄の亜急性側方圧迫であると考えられてきたので、われわれが臨床で使用している脊髄刺激脛骨神経誘発電位と運動系の誘発電位として頭蓋電気刺激下肢複合筋活動電位とを比較することにより、これを電気生理学的に立証する実験を行った。脊髄側方圧迫器を用いて胸椎高位で脊髄に亜急性漸増圧迫を加えながら電位変化を観察した。どちらかの電位に変化が生じた時点で圧迫を解除し、ネコを麻酔から覚醒させた。覚醒後の下肢運動機能を評価し、脊髄側方圧迫に対する誘発電位の危険域の設定した。また圧迫部の病理変化を観察することにより脊髄障害発生の病態を把握した。脊髄への軽度の側方圧迫群では頭蓋電気刺激下肢複合筋活動電位の波形消失がみられたが、脊髄刺激脛骨神経誘発電位の振幅は50%以上に保たれ、麻酔覚醒後ネコの下肢の運動は正常であった。次に両電位の消失まで圧迫した群では、麻酔覚醒後対麻痺となった。両群の圧迫率の差は10%以下であった。すなわち危険域は頭蓋電気刺激下肢複合筋活動電位の波形消失から脊髄刺激脛骨神経誘発電位消失までのごくわずかの圧迫率の変化の間に定められることがわかった。病理学的には明らかな所見が認められなかった。本年度はこれらのデータを定常化することができなかったので、今後の課題としてデータの統計学的処理から危険域の設定および同データの側弯症への臨床応用が可能になると思われる。
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