研究概要 |
変形性関節症は関節軟骨に摩耗をきたす疾患である.その原因として軟骨細胞に加わるメカニカルストレスが最も重要な因子の一つとして知られている.これまで,このメカニカルストレスを細胞レベルで検討した報告はない.我々はFlexercell strain unitを導入してその解析を行った.この装置は,コンピューター制御による陰圧により細胞に対する伸長負荷を加えることを可能にした. 平成8年度に得られた知見として,1)DNA合成能の増加,2)軟骨細胞の固有の機能であるプロテオグリカン合成能の低下であった.以上の所見は変形性関節症における特徴的な所見であり,本研究によりその病態がin vitroで再現されたことを示している. 平成9年度は特にメカニカルストレスによるプロテオグリカン合成能の低下に注目し,この現象にプロテインキナーゼCの関与の有無を検討した.プロテインキナーゼCの阻害剤の投与により,メカニカルストレスによるプロテオグリカン合成抑制は完全に回復された.またプロテインキナーゼCを活性化させるホルボールエステルでプロテインキナーゼCをあらかじめdown regulateさせた場合には,このプロテオグリカン合成抑制は認めなかった.さらにプロテインキナーゼCの酵素活性を計測すると,周期的牽引負荷によりその活性が低下していることが明かにされた.以上は軟骨細胞に対する17%伸長の条件であるが,これを2%の条件とすると,周期的牽引負荷はプロテオグリカン合成を逆に亢進しプロテインキナーゼC活性を亢進させた.このように軟骨細胞は機械的ストレスの大きさによりその代謝を変化させるが,その調節機構にプロテインキナーゼCが関与することは明かである.一方いずれの条件においても一酸化窒素(NO)の産生は低下していた. 以上のことより当初計画していた実験目標は達成され,変形性関節症の病態の一端が明らかにされたと考える.
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