我が国に於ける変形性股関節症は二次性が圧倒的に多く、臼蓋形成不全が二次性変形性股関節症を起こす原因としては最も高頻度である。寛骨臼回転骨切り術、寛骨臼移動術はこの疾患に対する代表的な観血的治療法であり、側方進入路を用いる両術式により大部分の症例では良好な術後成績が得られる。一方、両術式の重篤な術後合併症として移動した寛骨臼での骨壊死の発生がある。安全に骨切りを行うためには移動させる寛骨臼から広範に中殿筋を剥離する必要がある。このため移動した寛骨臼への栄養路は関節包を経由する血管系のみに依存することになり、このことが移動した寛骨臼での骨壊死の発生と関連があると考えられる。しかし、寛骨臼荷重部の血行動態についての定量的研究は皆無である。このため、我々は吸入式水素クリアランス法を用い、寛骨臼荷重部の血行動態に関する実験的研究を行った。生後7カ月以上の成熟犬8匹を材料とし、下腹部に縦切開を加えた。透視下に両側の寛骨臼荷重部へプラチナ電極をそれぞれ刺入固定する。右側はコントロールとし、展開せず左側と同時に血流量の測定のみを行なった。左側では、中殿筋の遠位1/2の剥離、中殿筋の広範な剥離、寛骨臼の骨切りを段階的に行ない、それぞれの前後で血流量を測定した。コントロール側の寛骨臼荷重部の血流量は殆ど変化せず、平均23.0ml/minであった。一方、左側の寛骨臼荷重部の血流量は、中殿筋の剥離前では組織100gr.当たり平均22.5ml/minであった。中殿筋の遠位1/2の剥離では殆ど減少しなかった。中殿筋の広範な剥離後の寛骨臼荷重部の血流量は、中殿筋の剥離前と比較して平均3/4減少した。左側の寛骨臼骨切り後の寛骨臼荷重部の血流量は殆ど0となった。
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