本年度は以下のような検索を中心に研究を進めた。 1.脳虚血に対する虚血耐性を獲得させうるSpreading Depression(以下SD)が、どのような条件で発生するか検索した。電気刺激によってSDを発生させる刺激強度は、従来報告されている強度よりかなり弱くても発生することがわかった。また、持続的化学刺激によりSDを発生させる場合、6〜8分の間隔で発生するのが観察された。このことより、SD発生にはある程度の不応期が存在することが示唆された。 2.SDを発生させる時の基礎麻酔によってSD発生の頻度・振幅・最大反応潜時が変化するか検索した。吸入麻酔薬では麻酔深度が深くなるに従って発生頻度が減少し、最大反応潜時が延長したが振幅には変化が認められなかった。静脈麻酔薬麻酔下では頻度・振幅・最大反応潜時には影響は認められなかった。NMDA受容体の拮抗薬であるケタミン麻酔下では、SD発生が完全に抑制された。以上よりSD発生にはNMDA受容体を介した機序が関与しており、その発生は麻酔薬の種類・麻酔深度により影響されることが示唆された。 3.SD処置後1・3および7日後のラットの脳スライス標本を用いて、低酸素・無グルコース負荷による大脳皮質神経細胞内遊離Ca^<2+>の上昇を観察した。SD前処置した側の神経細胞と前処置しなかった側の神経細胞間には、神経細胞内遊離Ca^<2+>上昇発生までの時間・上昇の程度に差が認められなかった。このことより、SD前処置による虚血耐性獲得機序は、グルタミン酸受容体を介した神経細胞内遊離Ca^<2+>上昇抑制によるものではない可能性が示唆された。
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