本研究は以下のような検索を中心に研究を進めた。 1.脳虚血耐性を獲得させるSpreading Depression(以下SD)が、どのような条件で発生するか検索した。電気刺激によるSD発生刺激強度は、従来報告されている強度の1/3〜1/5のかなり弱い刺激であることがわかった。またいったん発生したSDから次の発生にはある程度の不応期が存在することが示唆された。 2.SD発生時の基礎麻酔によるSD発生の頻度・振幅・最大反応潜時の影響を検索した。吸入麻酔薬では麻酔深度に従って発生頻度が減少し最大反応潜時が延長したが振幅には変化が認められなかった。NMDA受容体拮抗薬のケタミン麻酔下では、SD発生が完全に抑制された。以上よりSD発生にはNMDA受容体を介した機序が関与しており、その発生は麻酔薬の種類・麻酔深度により影響されることが示唆された。 3.低酸素・無グルコース負荷による細胞外グルタミン酸・細胞内遊離Ca2+の変化を検索した。SD前処置後1日のラット脳スライスでSD前処置した側としなかった側では、低酸素・無グルコース負荷からグルタミン酸上昇までの時間・Ca2+上昇までの時間・上昇の程度に差は認められなかった。このことより、SD前処置による虚血耐性獲得機序はNMDA受容体を介した神経細胞内遊離CA2+上昇抑制によるものではない可能性が示唆された。 4.麻酔薬の虚血耐性誘発に及ぼす影響を検索した。SD前処置をイソフルレンまたはケタミン麻酔下で行い、その1・3および7日後に脳虚血を負荷、虚血負荷3日後の障害脳神経細胞数を顕微鏡下に計測した。その結果疑似手術群に比較して、イソフルレン麻酔下SD前処置群の方が有意に脳神経細胞の障害が少なく、ケタミン麻酔下SD前処置群では疑似手術群と有意差が認められなかった。このことより、虚血他姓獲得にはNMDA受容体を介した機序が関与している可能性が示唆された。
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