吸入麻酔薬が筋小胞体に与える影響を、幼若心筋細胞と成熟心筋細胞での差もあわせ、比較検討した。成熟心筋細胞は当初マウスより分離する計画であったが、手技上に問題があり、ウサギ心筋細胞を使用した。心筋細胞の筋小胞体機能に与える影響は、カルシウム感受性蛍光色素Indo-1を心筋細胞に負荷したのち、細胞内カルシウム濃度を測定し、心筋細胞内カルシウム濃度の変化から検討した。筋小胞体のカルシウム再取り込み能は、収縮後のカルシウムの細胞内濃度の減少の程度から検討した。心筋細胞収縮力はヂュアルエッジディテクタを用い測定した。 全ての吸入麻酔薬は幼若心筋細胞の心筋収縮力を低下させた。カルシウム再取り込み能からみた筋小胞体機能には、全ての吸入麻酔薬は有意な影響を与えなかった。筋小胞体の阻害薬であるリアニジンを投与しても、幼若心筋細胞の収縮力は前値の80%程度にしか低下しなかった。吸入麻酔薬の胎児心筋細胞の収縮力抑制作用は、筋小胞体以外への作用が主であることが示唆された。全ての吸入麻酔薬は成熟心筋細胞の心筋収縮力を低下させた。収縮力の減少は灌流液のカルシウム濃度を増加することによって、代償可能であった。成熟心筋細胞では、筋小胞体の阻害薬であるリアニジン投与後は、収縮力は前値の20%以下に低下した。これは、成熟心筋細胞では筋小胞体からのカルシウム放出が、収縮力の決定因子として重要であることを示す。吸入麻酔薬は筋小胞体機能のカルシウム再取り込み能には有意な影響を与えなかった。吸入麻酔薬の心抑制作用には筋小胞体機能の抑制はあまり関与していないと示唆される。
|