心拍、血圧変動の低域周波数成分(LF)は、レニン・アンジオテンシン系を介した交感神経系と副交感神経系の2重支配により形成されると報告されている。本研究では特に心拍変動のLF成分に注目して、アンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子多型との関連から検討してきた。 対象患者は、難治性慢性疼痛疾患の代表であるComplex Regional Pain Syndrome(CRPS)患者とした。心拍変動を測定し、同時にACE遺伝子多型を解析した。CRPS患者では疼痛部位での末梢血管収縮が著明であり、強力な血管収縮を生じるレニンアンジオテンシン系が末梢血管で機能亢進している可能性があると考えられるからである。ACE遺伝子多型は490bp(II型)、490および190bp(ID型)、190bp(DD型)の3種類に分類した。 この結果ACE遺伝子多型のなかでDD型遺伝子は約1/3の患者で観察された。日本人におけるDD型は18%前後と報告されており、きわめて高頻度で観察されたことになる。またDD型を示した患者ではACE活性が他の二つの遺伝子群に比較して優位に上昇していた。カテコールアミン3分画、血漿レニン活性、アンジオテンシ1および2の測定結果では、DD群、II群およびID群とでは有意差は生じていなかった。Complex regional pain syndrome患者では交感神経機能が亢進していることはよく知られており、DD型の多いComplex regional pain syndrome患者では何らかの遺伝的な素因も疼痛発症機序に関与しているものと推察され、発症予測や有効な治療法選択への応用が考えられた。また心拍変動の周波数解析結果では、LF成分とHF成分との構成にACE遺伝子多型性との有意な関連性は認められなかった。
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