肝切除中に使用される吸入麻酔薬が、術後の肝再生に与える影響を、ラットを用いて分子生物学的に明らかにしようとしたが、結果のばらつきが大きく、また予想したような各遺伝子のmRNA発現亢進の抑制が見られなかった。そこで、術後の循環動態安定化の可否が、肝再生に大きく影響すると考え、対象をヒトに変更し、吸入麻酔薬をはじめとする各種麻酔薬が、循環動態のダイナミクスにどのような影響を与えるのかを、心拍変動の周波数解析、および非線型解析によって調べた。その結果、一部の肝硬変患者は、術前からゆらぎの非常に小さい、特異な循環ダイナミクスを持つことがわかった。また、吸入麻酔薬(イソフルラン)の投与は、心拍変動の周波数解析から得られる各周波数成分を減少させるのみならず、心拍変動時系列データのLyapunov Exponentsや、Correlation Dimensionと、いった、非線型パラメータも減少させることが明かとなった。一方、静脈麻酔薬であるプロポフォールやフェンタニールは、ある非線型パラメータを減少させないこと。麻酔薬の影響以上に、有害な手術刺激が循環調節系のダイナミクスを障害することもわかった。また、麻酔中は、心拍変動のゆらぎの幅が非常に小さくなるものの、ゆらぎ自体は保たれていることから、麻酔中の心拍変動の解析には、従来いわれているような1msecの精度では、不充分であることも明らかになった。
|